当院について

当院の取り組み

心臓病の患者さんと、ご家族によんでいただきたい
~あなたの大事なひとをまもるファミリー救命セミナー~

想像してみてください。―ある日、とつぜんあなたの目の前で、大事な家族がたおれたとしたら。―そばに駆けつけたとき、家族の呼吸が止まっていたら。本コンテンツは、そんなご不安をかかえている方に向けて書いています。

はじめまして。
仙台循環器病センター循環器内科の肥田親彦と申します。当院には、さまざまな心臓病の患者さんが通院されています。心臓病は、慢性の病気として長くつき合っていかなければならず、患者さんだけではなく、そのご家族にも大きな負担を強いる疾患です。とくに生命にかかわる臓器ですから、日頃から心配をかさねる方も多いことでしょう。
さて、仙台循環器病センターでは、定期的にファミリー救命セミナーが開催されていることをご存じでしょうか。
ファミリー救命セミナーは、大切なご家族をまもる救命蘇生法を学び、実践していただくためのセミナーです。本コンテンツでは、このセミナーについての詳細をご紹介したいとおもいます。

Ⅰ. なぜ、家族も救命蘇生法を学ばなければならないの?

ⅰ)救命蘇生法の歴史

救命蘇生法の歴史は古く、かつては馬の背に乗せて走らせる、酒樽の上を転がす、腸に煙を入れる、シーソーにのせて揺り動かす…など、様々な方法が模索されては歴史の中に消えていきました。現代的な救命蘇生法―すなわち、胸骨圧迫法や人工呼吸法が有用視されるようになったのは1950年代からです。その後、集中治療学が飛躍的に進歩し、体外式除細動(いわゆる電気ショック)などのさまざまな治療法が生まれていきました。

ⅱ)救命蘇生法は、5分以内にはじめなければならない!

つぎに、下の図をごらんください。


救命率と胸骨圧迫開始の時間グラフ
(引用:HolmbergH,etal.Resuscitation.2000Sep;47(1):59-70.一部改変)

心停止におちいってから、救急車が到着するまでの間に救命蘇生法をおこなったかどうかで、救命率が大きく変わっていることがわかります。
ここで大事なことは、集中治療学がどれほど進歩しても、発症直後にすぐ救命蘇生法がおこなわれなければ、救命はむずかしいという点です。
とくに、救命蘇生法を始めるまでに5分以上を経過したものは、仮に死亡をまぬがれたとしても、なんらかの後遺症をのこすことが多いとされています。

一方で、こちらのグラフはいかがでしょうか。救急車が現場に到着するまでの時間が5分未満のケースは、全体の10パーセントにも満たないのです。


(引用:平成29年版消防白書)

では、救急隊が到着するまでの間、誰が救命蘇生法をとればよいのでしょうか。

・・・それは、あなたしかいません。

あなたが、家族の息がとまったときに、5分以内に救命蘇生法をはじめるのです。だからこそ、医療従事者ではないご家族も、急性蘇生法を学ばなければならないのです。

Ⅱ.助けをよんだら、胸骨圧迫法!

―でも、どうやって??
―どこを、どう押すの??

救命蘇生法は、なんとなく専門的な雰囲気があって、日常生活ではなじみがうすいものかもしれません。または、「いちど習ったが、時間がたつにつれてわすれてしまった」という方もおられるのではないでしょうか。

ⅰ)まずは助けをよぼう!

救命蘇生法の基本は、まず助けをよぶことからはじまります。具体的には救急車の要請が挙げられるでしょう。その後は、たえまなく胸骨圧迫をつづけ、全身の血流が途絶えないようにしなければなりません。

ⅱ)胸骨圧迫法とは?

胸の中央部には、胸骨という板状の骨があります。この胸骨をなんども圧迫することで、体外から心臓を押しこみ、全身に血液を拍出させることができるのです。

こうして、絶え間なく胸骨を“押しては戻す”動作をくりかえすことで、全身の血のめぐりを保つのです。(日本循環器学会ホームページにアニメーションが掲載されています。)

(※現在も「心臓マッサージ」という呼称はありますが、「マッサージ」という言葉が胸の筋肉をもみほぐす行為と誤解される場合があるため、「胸骨圧迫」と表現するようになりました。)

全身に血液をめぐらせるうちに、だんだん心臓自体にも血液がみなぎり、みずからの拍動を取り戻すようになります。ついで、AEDがあれば、いそいで装着をします。

Ⅲ.AEDの使用法をまなぼう!

本章では、AEDについてご紹介します。

ⅰ)AEDってなに?

みなさんは、「AED」という言葉を耳にされたことはありませんか?これは、「自動体外式除細動器」の略称で、いわゆる電気ショックをおこなう装置のことです。

町中で、きっとこのような機械を見かけたことがあるはずです。

このAEDは、心停止のときに用いられる救命用具であり、いまや空港、駅、学校、デパートの中など、あらゆる場所に設置されています。
その使い方は非常にシンプルです。カバーをあけて電源をつければ、音声ガイドがはじまりますので、その指示にしたがっていただくだけです。ただ、実際の心肺停止の状況はあまりにも非日常的ですので、ついあわててしまいがちです。いちどAEDの使い方を実技でおぼえていただく方が、いざというときに実践的でしょう。

ファミリー救命セミナーでは、胸骨圧迫法のほかに、このAEDの使い方についても学んでいただきます。

ⅱ)筋肉は電気でうごいている!

そもそも、なぜ心停止で電気ショックをおこなうのでしょうか?
1771年、イタリアの解剖学者ルイージ・ガルヴァーニは、生命活動が停止したカエルで、ある実験をおこないました。カエルの筋肉に電気を流すと、筋肉が収縮することをつきとめたのです。つまり、筋肉は電気によってうごいていることが発見されたのでした。この後から、電気ショックという概念がはじまります。

ⅲ)心臓の電流の乱れに喝をあたえる

心臓も筋肉でできていますから、目にはみえなくても電気がながれています(だから“心電図”という機械があるのです!)。この電気の流れがうまくいかなくなると、心臓の筋肉のうごきもわるくなります。
もし、心臓のあちこちで、電気の流れがみだれてしまったら、どうなるでしょう?当然、心臓の筋肉のうごきもメチャクチャになり、けいれんしているような状態になりますから、全身に血液を送ることができなくなります。
電気ショックとは、このメチャクチャな電流に喝をあたえ、心臓の電気の流れをいったんリセットすることなのです。電流に乱れがあるからといって、すべてが致命的なものとは限りませんが、心停止に陥るケースにおいては、やはり一秒をあらそって電気ショックを実施するべきでしょう。(注:心停止のなかには、電気ショックの適応になるもの、ならないものがあります。そのような鑑別は、AEDがおこなってくれますのでご安心ください。)

Ⅳ.ぜひ、ファミリー救命セミナーに参加しよう!!

仙台循環器病センターでは、毎月『ファミリー救命セミナー』を開催しています。

この救命セミナーは、患者さんへの退院指導の一環としておこなわれており、患者さん、そしてご家族に胸骨圧迫法を学んでいただいています。講習時間は約1時間30分で、当院の専門スタッフがやさしくていねいに指導します。

ⅰ)開催実績は10年以上!!

はじめて『ファミリー救命セミナー』がはじまったのは、2006年6月15日。


グラフ:ファミリーQQ開催数

その後もご好評をいただきながら定期的に開催し、2019年5月までに877名の方々に受講していただきました。もともと、胸骨圧迫法を軸にした救命蘇生法は、BLS(BasicLife Support : 一次救命処置)とも呼ばれ、一般の方々への普及を目指したつくりになっています。
1時間30分の講習期間内で、どなたでもスキルを獲得できますので、安心してご参加ください。

ⅱ)院内職員対象に、BLSを毎月開催中!

仙台循環器病センターは宮城県の心臓病診療を担う病院です。突然の事態にも対応ができるよう、医師や看護師、技師、事務など、あらゆるスタッフが一丸となって救命蘇生法の習得に取り組んでいます。毎月院内職員向けのBLS講習会を開催し、ひとりひとりが高い救命スキルを学んでいます。宮城県の地域診療が充実するようにこれからも尽力してまいりますので、これからもよろしくお願いします。

Ⅴ.まとめ

本コンテンツでは、仙台循環器病センターでのファミリー救命セミナーについてご紹介いたしました。

  • 呼びかけに応じなくなり、息がとまっている場合には、まず救急車をよびましょう。
  • 助けをよんだあとは、すみやかに胸骨圧迫法をおこないます。
  • AEDをつかい、必要があれば電気ショックをおこないます。
  • 救命蘇生法の開始がおくれるほど、救命率が下がり、後遺症も残りますので、一秒でもはやい処置が必要です。
  • 救命蘇生法を実技で習得していただくため、ぜひ当院のファミリー救命セミナーにご参加ください!